欧州における意匠権-その基本原理

欧州連合(EU)域内における意匠には非登録意匠権と登録意匠権という2通りの保護形態が存在します。

非登録意匠権

非登録録共同体意匠の保護期間は3年のみであり3年のみであり、創作物に対する模倣があった場合にのみ侵害を主張することが出来ます。またEU域外で最初に公知となったものに対しては保護が及ばない可能性があります。(欧州において商標意匠関連法を語る場合に”共同体”と”EU”というそれぞれの文言は、欧州連合の加盟国と機関およびその地域を指すという意味において同一の意味を持つ、と見なされます。)

いくつかの国においては非登録国内意匠制度が存在する場合もあります。ただしこれらを保護する制度はハーモナイズされておらず、著作権、不正競争法や特定の意匠権保護法によってのみ規定されている可能性があります。

よって非登録意匠に頼らず、正式な意匠登録を得ることが強く勧められます。

登録意匠権

共同体意匠法によると意匠権の保護対象範囲は、”製品の全体又は一部の外観であって、その特徴、とりわけ線、輪郭、色彩、形状、織り方及び/又はその製品自体の素材及び/又はその装飾品”を指し、ここでいう”製品”とはあらゆる工業又は手工芸による物品をいいます。

製品の要件に、特段な審美的魅力もしくはデザイナーズ製品でなければいけないという項目は有りません。大量生産品や単発の作品及び大小様々な価値を持つ作品を対象とすることが出来ます。またケーキやフラワーアレンジメントといった短命な作品でさえも含むことが可能です。しかし、単に技術的機能のみに支配された創作物や製品の通常の使用中には見ることができない構成部品、製品同士を機械的に連結する機能を持つ創作物は保護範囲外となります。

意匠はEU28加盟国全てに有効な登録共同体意匠、もしくはいずれかの国内登録機関で登録を受ける登録国内意匠として登録することが可能です。ベルギー、ルクセンブルグ、オランダの3カ国によって構成されるベネルクス以外の全EU加盟国はそれぞれ有効な国内登録機関を持ちます。スペインのアリカンテにある“欧州連合知的財産庁”(EUIPO)が登録共同体意匠を管理しています。

今日、意匠出願人の多くはその利便性、審査スピード、庁費用の安さから登録国内意匠ではなく登録共同体意匠を選択しています。

同一の意匠に対して登録共同体意匠と登録国内意匠を並存させることは可能か?

可能です。二重登録は禁止されていません。

登録国内意匠と登録共同体意匠が享受する権利に違いはあるか?

登録国内意匠によって与えられる実体的権利は登録共同体意匠とハーモナイズされており、その保護範囲と侵害に係る権利は原則的に同じです。

国内登録意匠はその登録された国のみに効力が及ぶのに対し、登録共同体意匠はEU28加盟国全てに効力が及びます。各国権利の束である欧州特許と違い共同体意匠は一元性を有するため、譲渡や登録無効の手続きもEU全域に対してのみ行います。一元性を持つ権利として、登録共同体意匠は1つの手続きのみで登録無効とすることが可能です。よって重要案件に関しては同一内容の登録国内意匠を権利取得しておき、登録共同体意匠保護と並存させておくことをお勧めします。

EUIPOおよび各国登録機関における登録手続きの法的要件に違いは有るか?

登録における実体的要件(具体的には後述する新規性および独自性の要件)はEU全域に渡りハーモナイズされており、EUIPOおよび各国登録機関においても同じ状況です。

EUIPOと多くの国内登録機関における手続きは似通っており、方式審査にさえ通れば新規性および独自性要件が審査されることはなく自動的に登録となります。

登録共同体意匠の登録後はどうなるか?

登録共同体意匠は登録後、特段の手続き無しに自動的にEU全域で有効となります(一部の国で有効となるには翻訳提出が必要な欧州特許とは異なる)。

共同体登録意匠への侵害行為は”共同体意匠裁判所”にて決定されます。これはEU加盟国によって共同体意匠案件の審議指定を受けた特定の国内裁判所です。英国の場合、特許裁判所および州特許裁判所がこれに当たります。各共同体意匠裁判所はそれぞれの国内法規に従うことになっており、これら法規はハーモナイズされていません。

登録共同体意匠は登録後どのように取消されるのか?

無効な登録共同体意匠は、無効である旨立証責任のある第三者の申立によって無効認定を受けることが出来ます。この無効申立が侵害訴訟の一貫である場合、その有効性は侵害訴訟を請け負う国内裁判所(共同体意匠裁判所)によって審議されます。それ以外のケースでは侵害の認定はEUIPOによってなされます。

登録共同体意匠の登録後に修正することは可能か?

登録共同体意匠はその創作の独自性が維持される限りにおいてのみ、無効審議中に権利の有効性を回復して登録を救済する目的のための修正が認められます。ただしこれが適用になるケースは大変まれです。

登録共同体意匠の保護期間はどれ位か?

有効な登録共同体意匠の権利を維持するためには5年毎に更新料の支払いが必要です。支払いを怠った場合、登録は失効します。更新料が支払われさえすれば、出願日から25年が意匠権保護の最長期間となります。

実体的要件:新規性および独自性

登録共同体意匠の出願には実体審査は伴わず方式要件に則ってさえいれば登録されますが、原則的に登録共同体意匠は”新規”かつ”独自”でなければなりません。これら基準を満たなさない限り登録共同体意匠は無効です。ただし、第三者から登録無効申立を受けなければその登録は維持されることとなります。

新規性-登録共同体意匠に対する新規性の認定は、その出願日以前に公衆の利用可能な状態におかれている他者の創作物と類似もしくは軽微な相違のみではない場合になされます。原則的には、世界のどこにおいてでも先行開示された場合に新規性は喪失されます。ただし、以下2つは重要な新規性喪失の例外です:

1. EU域内の関連する創作分野において相応な理由を持って知られていない場合には、先行開示の認定を否認できる。

2. 出願日以前1年間の間に創作者もしくは出願人による開示がなされた場合、その間は猶予期間(グレースピリオド)としてカウントされる。

しかしEU域外の多くの国には登録意匠に対するグレースピリオド制度は存在しないため、この制度に頼って実務を行うのは得策では有りません。特許と同様に開示以前に出願することが共同体意匠においても勧められます。

独自性-独自性の要件は、特許における進歩性のそれとほぼ同じです。新規創作物は、その全体的印象が登録共同体意匠の出願日以前に公衆の利用可能な状態におかれている創作物から与えられる印象との間に相違が有ると情報に通じた使用者が認識した場合にのみ、独自性の認定がなされます。“情報に通じた使用者”とは、製品に対する消費者を指しているのであり、製作に関わる創作者や技術者は該当しません。

保護範囲

登録共同体意匠の保護範囲は比較的狭く、その保護範囲は独自性の要件に則って情報に通じた使用者が登録共同体意匠との全体的印象に相違が無いと考える他の創作物に対しておよびます。創作が複製されたかどうかは問題では有りません-登録共同体意匠は非登録意匠権とは対照的に独占的な権利です。多くの創作物がひしめくデザイン業界では、保護の範囲はより狭くなります。現行法に基づいた近年の登録意匠に関する裁判所判決では、比較的画期的な創作物に対してでさえも狭い保護範囲を示しています。

意匠の表示

保護の及ぶ創作物は物品の表示により決定されます。記載することが義務化されている物品の普通名称およびロカルノ分類による国際分類は、保護の範囲には影響を及ぼしません。出願時に任意に付記できる図形記載も保護の範囲に影響は有りませんが、意匠表現を明確化するのに役立ちます。

また陰影を付ける、線で囲む、点描、といった手法を使って特定の箇所が意匠の権利対象に含まれないとすることが出来ます。これは”部分意匠”と呼ばれることがあり、当該意匠が製品の一部のみに表示される場合に該当します。

EUIPOによって許容されるのは何件の表示まで?

表現物提出の最低件数は定められていません。さらに、EUIPOは物品に対する特定の図面を要求することはないため当該創作物にとって何を提出するのがベストかは出願人の裁量に委ねられています。

一方、表現物提出の最大件数は7件です。共同体意匠が基礎とする優先権出願に7件以上の表現物が有る場合には、最もよく図示された7件をまず選択すべきです。追加3件(最大10件まで)の提出が許容される場合もありえますが最後の3件は登録には含まれない表現物であり、保護の範囲は最初の7件に限定されてしまいます。

パリ条約における優先権を主張する場合、表現物は優先権出願と同一でなければならないか?

EUIPOは、優先権出願と最低でも1つのクレームが一致した場合に優先権主張を認めています。ただしこの手法は共同体意匠裁判所における判例では未だ確立されておらず、最も確実な方法としては2つの出願に対して修正をほどこさない同一の表現物を提出することとなります。

表現物に対する典型的な拒絶理由にはどんなものがあり、どうやって回避可能か?

典型的な拒絶理由とは:

1) テキスト文書の包含。テキストは、可能である限り”物品の説明”項に記載を移動させなければならない。

2) 異なった表現物は異なった製品もしくは創作を表す。製品が1つ以上の形状を示している場合、1つの創作物が異なる形状や異なる表現物を持つことは拒絶理由を引き起こす。異なるデザインの結果からなる両者異なる形状は、事項で説明する”複数意匠”システムを活用するのが望ましい。

その他、実務上の諸問題

複数意匠

EUIPO(およびその他多くの国内登録機関)が複数意匠を1つの出願で行うことを許容しています(ロカルノ協定における国際分類同一が条件)。これの利点は費用が安くなることです。これらの意匠はそれぞれ独立しており、更新や譲渡等の個別対応が可能です。1つの意匠が無効になっても他権利に影響を及ぼしません。この有益なシステムは単一包含意匠の代わりに複数の部分意匠を登録するためや、特定デザインのバリエーション出願を行う際に広く活用されています。

EUIPOの使用言語は?

EUIPOには-英語、フランス語、ドイツ語、スペイン語およびイタリア語、5つの公用語があります。出願人はこれらのうちどれか1つを使用して出願を行い、その他使用可能な第2外国語も選択する必要があります。ただし、登録無効申立等は5つの公用語のうちどの言語を使ってでも申立可能であり、この第2外国語選択は実務上あまり重要では有りません。

創作者も出願人に加えるべきか?

創作者はその権利を放棄しない限り、願書に記載される権利を持ちます。このため、創作者を出願に加えることは必須では無いものの創作者自身が権利放棄しなければ出願に加えられるべきです。

出願は早ければどれくらいの期間で登録となるか?

実体審査は行われず拒絶理由が発せられることはほぼ無いため、通常は数週間ないし数ヶ月の短期間で出願から登録へと進みます。

繰延べ公告

登録共同体意匠は、出願時に繰延べ公告要求がされていない限り登録時に公告されます。出願日から最大30ヶ月までの期間、公告を延期することが出来ます。これは出願人が意匠の秘密性を保持したいと考えている場合に有効な手法であり、通常出願時に支払う公告料の代わりに小額の付加手数料を支払うことで可能となります。ただし出願人が出願日から27ヶ月以内に公告請求を行って公告料を支払わない限り、登録は失効します。