下記に欧州で商標を取得する際の3つの手段を、特に英国にフォーカスをあてて解説します。また本トピックについてよく聞かれる一般的な質問についても回答します。
EUTMシステムとはEU加盟28カ国全てに効力を持つ単一の商標登録です。
これはスペインのアリカンテに本拠地を持つ” 欧州連合知的財産庁”(EUIPO)によって管理されています。EUIPOは欧州全域出身の審査官によって構成されており5つの公用語(フランス語、ドイツ語、イタリア語、スペイン語、英語)が使用可能、そのうち最も使用頻度が高いのは英語です。
EUTM出願は全てのパリ条約加盟国およびWTO加盟国における先行出願での優先権を主張出来、その標準的な出願費用は商品/役務1クラス分の出願に該当します。
EUTM出願は絶対審査方式を取っており、識別可能性が充分にありその他登録要件にも適っていることが出願の際に審査されます。記述的要件に基づく異議申立はEU加盟国言語であればいずれの言語ででも申し立てることが可能であり、異議申立が認められるとEU全域に渡り拒絶となります。
しかし異議申立の根拠となる特定の国/地域以外では、拒絶されたEUTMはその優先権を失うことなくEU加盟28カ国の通常国内出願へと移行することが可能です。
またEUIPOはEUTM調査段階において先行類似商標が発見された場合、出願時に希望した者宛に通知を行うと同時に先行類似商標権利者宛にも通知します(EIPは顧客の皆様に本通知サービスをデフォルトで行っています)。
そうしたオフィシャルサーチで発見された先行類似商標を理由に拒絶されることはなく、類似出願に異議申立を起こすかどうかは先行類似商標の権利者にゆだねられています。
出願公告後は3ヶ月の延長不可な異議申立可能期間に入ります。出願公告後の異議申立は相対的理由に基づいてのみ起こすことが出来、絶対的理由による登録取消申立は登録後に第三者が起こす場合にのみ可能です。
異議申立は先行類似EUTM、もしくはEU加盟28カ国における先行類似国内商標(マドリッドプロトコルにおける国際登録事後指定を含む)に基づき起こすことが出来ます。その他にもコモンローに基づく権利やEU競争法規、パリ条約における”周知標章”を理由に提起することも可能です。
登録完了後、EUTMは出願日から10年間の保護期間を得て更新を迎えます。EUTM登録は第三者による絶対的もしくは相対的拒絶理由を根拠とした申立により拒絶されることがあります。また登録後5年間の継続的な不使用は第三者による不使用取消審判申立の対象となり得ます。
EUTMシステムはEU全域における差し止め命令および単一EU税関通知の根拠とすることが出来ます。これは欧州における商標権保護の強力なツールとなり得るでしょう。
マドリッドプロトコル(マドプロ)と呼ばれる”国際登録”システムは、欧州で商標権を獲得するもう一つの方法です。EU加盟28カ国全てがマドリッドプロトコル締約国であり、EUTMシステム自体もひとつの単一地域としてマドプロ出願の対象とすることが可能です。
ノルウェー、スイス、トルコ、ロシア、ウクライナといったEU非加盟国およびいくつかのEU域外周辺国もマドプロ締約国です。
マドリッドシステムが潜在的に抱える最大の弱点としてセントラルアタックの可能性があげられます。国際登録日から5年間は本国の基礎登録に基づくため、基礎登録が取り消された場合には国際登録および全ての事後指定国における効力を失ってしまいます。
セントラルアタック対抗策として事後指定国における権利を通常の国内出願に移行するのという対策は有効ですが、マドプロ出願ルートでの利点である費用削減効果は阻害されてしまいます。
EU加盟数カ国のみでの保護が望まれる場合、もしくはEUTM一部地域で権利保護が不可能な場合はマドプロ事後指定国をEUTMではなく個別の国毎に選択することが有効です。またEU域外周辺国といったEU非加盟国における権利保護を望む場合、マドプロ事後指定でそれらの国を選択することは非常に有効です。
優先権出願が必要で基礎出願が未だ登録に至っていないケースの場合は、セントラルアタックのリスクを想定してマドプロルートで出願を進めることがためらわれます。こうした場合、すでに登録済みの権利を基礎登録として出願を進めることがお勧めです。この戦略は、強い権利の取得、特に識別力の獲得や先行商標対策(出願前調査が有効)のいずれにおいても有効です。
本国における基礎出願もしくは基礎登録に対する審査基準によっては、欧州での広い指定商品や広い侵害権の獲得がままならない事も有り得ます。
一方、更新手続きや権利書換えを一括で出来るということはマドリッドシステムを活用した特許ポートフォリオ運用へと向けた最大の魅力となるでしょう。
最後に、欧州域内いずれの国においても直接国内出願を行うことは可能です。最も強力な基礎登録が必要となってくる基幹市場となる国でこれらをすることは特に意義深いことです。
国内出願のステータスは同等のEUTMもしくはマドプロ事後指定と何の変わりもないものの、膨大な数の潜在的異議申立やセントラルアタックの脅威といった不利益から苦しむことはありません。
EU28カ国間での商標法ハーモナイゼーションは進んでおり、EU商標指令に則った国内法規がそれぞれの国において存在します。しかし細かい点での違いは未だ大きく、各国庁間の手続きも異なっています。
英国およびアイルランドではコモンローにおける”パッシングオフ”制度により非登録商標にも保護が及ぶ場合が有ります。その他EU加盟国は大陸法管轄地域であり、非登録商標の持ち主に唯一残された救済方法としては不公正競争法によるものと商号を保護する法律によるものがあります。
それぞれのケースにおいて与えられる権利はハーモナイズされており、侵害にまつわるものも理論上は同じ尺度で考えられるべきです。
英国法の下では、ある英国登録商標がその登録指定商品および/もしくは役務に使用されている場合、他の登録商標により侵害を主張することは出来ません(ただしこの原則は近年の欧州司法裁判所によるいくつかの判決により翻される可能性があります)。
さらに国内出願は、登録された国のみで効力を発揮することに対してEUTM登録は28カ国全てのEU加盟国内で効力を発揮します。EUTMは、その登録が国別ではなく単一の権利として活用出来るという点で独自の性質を持っています。譲渡の効力も国毎ではなくEU全域に及びます。
権利取得後のマドプロ英国もしくはEU事後指定の効力は、英国国内登録もしくはEUTM登録と何ら変わりはありません。英国もしくはEU事後指定における審査ルートを法的に見ても、WIPOから各知財庁へと通達が行った後には国毎に直接出願した場合と同じルートを辿ります。更新手続きに関しても基礎となる国際登録(英国事後指定日に関わりなく)と同じタイミングで更新期限を迎えます。譲渡手続きも全てWIPO経由で行われます。
識別性および類似性審査の際に発生する法的要件はEU加盟国内ですでにハーモナイズされています。ただし、手続き面での各国庁間の相違は未だ顕著です。
第三者が取引を行う際、下記条件で侵害が発生します:
1) 同一の指定商品/役務にて同一の商標を使用した場合
2) 同一もしくは類似の指定商品/役務にて同一もしくは類似の商標を使用した場合および消費者間で混同のおそれが存在した場合
3) 同一もしくは類似の商標を異なった指定商品/役務に使用した場合で、先行商標が著名であり後願商標の不当使用によって不利益をこうむった場合もしくは先行商標の名声を阻害した場合
混同のおそれの認定は、商標および指定商品/役務の類似度と先行商標の識別性および著名度の双方を勘案してなされなければなりません。
EUTM登録はEU商標規則に規定された絶対的拒絶理由(例えば、内在的識別力の有無)、もしくは先行商標との抵触が立証された場合にのみ第三者による登録取消し申立が認められます。
申立を受けた権利者は、登録後の使用によって培われた顕著性に基づき抗弁することが可能です。ただし立体商標に関しては特別な規定が存在するため、これらは当てはまりません。
EUTM登録は、登録された指定商品/役務において登録から継続して5年間の使用がなされなかった場合も第三者による取消し申立が可能です。一部の指定商品/役務のみに対する取消し申立も可能であり、これらの場合使用の立証責任は権利者にあります。第三者からの取消し申立対抗策として行われていない場合のみ、使用の再開は不使用期間を緩和することが出来ます。
EU加盟国のうち一国ででも真正に使用していればEUTM登録を維持することは可能ですが、本来必要とされているのはEU域内での使用であり、EUIPOはEU市場全域での使用を鑑みて判断を下します。取消し申立を受けて権利登録維持のみのために使用開始されたことが判明した場合、不正登録維持として取消しを受ける可能性が多いにあります。
通常、唯一可能な補正は指定商品の削除や範囲を狭めるといった事のみであり、指定商品の範囲を広げることは出来ません。また標章自体への修正は、例えそれが軽微なものや標章上に記載された権利者の住所変更等であったとしても認められません。
EUTMはまず10年間保護され、その後10年毎に更新可能です(出願日起算)。また更新期限が過ぎた場合でも追加料金と共に6ヶ月の猶予期間が与えられます。
過去2回のEU拡大時、EUTMの保護対象は自動的に新規加盟国に及びました。しかし新規加盟国でEUTM権利に基づき権利行使することは、その国の先行国内商標状況によります。
現在、特に問題の無い場合の登録手続きには4~6ヶ月間要しています。拒絶理由通知や第三者による異議申立を受けた場合には相応の時間が追加となります。
EUIPO手続きにおいては全てのEUTM事後指定はWIPO通知直後に再公告されます(第一回目の再公告)。この再広告日を起算として1ヶ月後~4ヶ月目までの間が3ヶ月の延長不可異議申立期間です。
EUTM事後指定が異議申立を受けた場合、EU域外在住の権利者はWIPOから知らせを受けたらすぐにEU域内代理人を立てることが何より重要です