米国特許 - 基本編

米国では、実用特許、意匠特許、そして植物特許の出願が可能である。一般的に「特許」と聞いて大半の人が思い浮かべるのは「実用特許」のことである。実用特許は、新規プロセス(または有用なプロセス)、機械、生産物、あるいは組成物に付与される。何らかの有用な機能や利益をもたらす発明に付与されるためのものである。一方、意匠特許は、これまでに無い独創的な装飾デザインに付与されるものであり、要素やデザイン面は除外される。以下の記述は米国における実用特許に注目したものである。

特許の要件

発明を登録するには多くの法令基準を満たす必要がある。主な2つの要件は、1)発明に新規性を有すること、つまり、これまで公に使用されたり既知のものではないということ、である。さらに、2)発明が進歩性を有すること、である。2)の要件は、発明が新規性を有するに留まらず、公有物であってはならない上、発明分野の専門家当業者による既知の技術の改良で起こった発明であってはならないということである。さらに特許化できない例外にも注意したい。例えば、発明が漠然としたアイデアでしかない場合や、単にコンピューターを使用せずに実行できるものをあえてコンピューターにより実行したもの、等である。

先願主義

米国は長い間、先発明主義を採用してきたが、諸外国が採用する先願主義に変更した。制度に微妙な差異はあるが、極簡単に言えば、新規性および進歩性を有する発明を最初に出願した者が特許権を得ることができる、ということだ。例えば、Aが最初に発明したとしても、Bが最初に出願手続きをした場合、AではなくBに特許付与の優先権が与えられることになる。しかし、ここでいくつかの例外がある。例えば、出願人Aが、発明者Bの発明がAのアイデアや発明を元にしたものと証明した場合、そして出願人Aが、出願人Bの出願より前に発明を記述する何らかの書物を発行しており、その発行日から1年以内に出願した場合である。

特許出願するにあたり、成果製品に完全な開発は必要とされない。実際のところ、出願人は、成果の製作を始めることさえ必要とされていないのだ。出願人はただ実行可能な発明のアイデアを持ち、それを該当技術分野の何者かが実施できるように明細書に説明すればよいのである。

実用特許の出願

米国で実用特許を取得するには2種のルートがある。一つは、米国特許商標庁(USPTO)に直接出願する方法で、これにおいては、この出願より前の他国での国内出願や米国における仮出願に基づいた優先権の主張をすることができる。つまり、この米国出願日は、日本での出願日や米国での仮出願日を出願日と遡ってみなされる。そしてもう一つのルートは、PCT(特許協力条約)に基づいて出願する方法で、通常国際出願、あるいはPCT出願と呼ばれる。これらの2つのルートには、手続き面での違いはあるものの、米国における特許の保護条件に変わりはない。

仮出願

米国では「仮出願」が可能である。米国での仮出願は、後の本出願に先立って、優先日を確保するためのものである。仮出願をしておくと、仮出願日の1年後までに本出願をすればよい、つまり実際の出願手続きを遅らせることができるのだ。これにはいくつかのメリットがある。

一つは、仮出願の時点では発明の内容が未だ十分に明確でない場合や、資金に余裕がない場合である。さらに、発明技術分野の市場の動向がまだ不明な場合だ。もう一つのメリットは、仮出願が本出願に一足早い優先権を与えるにも関わらず、仮出願日は実用特許存続期間には影響しないということである。(つまり、仮出願日から本出願日までの期間は特許の存続期間に含まれないということ。)

早期審査

米国で特許出願された後、USPTOでの審査が担当の審査官により開始されるが、通常、審査開始までには出願日から2~4年かそれ以上の時間を要するとされている。しかし、早期審査制度、優先審査制度、または、出願人の年齢や健康状態を理由にする上申書を提出したり、(PPH)という制度を出願時に利用することで、審査促進が可能である。

早期審査制は、出願日から12ヶ月後までに、出願内容の審査に着手することを目的に設けられた制度であるが、これを利用するには多くの要件を満たさねならない。親出願の独立クレームの数が3項以下でありさらにクレームの総数が20項以下であること、全クレームが一つの発明に直結していること、上申書に審査官との面談に応じる旨が含まれること、 出願人が先行技術調査を行うこと、そして、その先行技術と限定クレームについて詳細に記された書類を提出すること、である。先行技術調査要件や調査結果についての書類作成には費用がかかり、またネガティブな中間処理履歴を残しかねない為、早期審査制の利用が常に良い手段とは言えない。(追加の提出費用自体は130ドル(2016年2月現在)と比較的安いのだが。)

上記の早期審査制のように、優先審査制もまた、USPTOが出願後12ヶ月以内に審査を開始することを目的としたものである。但し、優先審査制には、早期審査制で必要とされる、先行技術調査や他の書類の提出は必要ない。さらに、独立クレームを4項以下、クレームの総数を20項以下に収めればよいのだ。然しながら、かかる費用は早期審査制よりもはるかに高く、追加提出費用は4000ドルとなっている。(2016年2月現在)

最後に、特許審査ハイウェイ(PPH) 制度についてである。これはPCT出願段階でクレームに新規性および進歩性を見出された場合、または他の国の特許庁による特許査定が通知された場合、その出願案件は、PPH制度に則った出願が可能である。USPTOによって正式に定められた期日などはないが、通常の出願よりははるかに早く審査が進められる。PPHは有益な制度ではあるが、手続き要件に満たない理由で実際の利用に至らないことも多い。

審査過程

出願後、USPTOは出願内容の審査とクレームに関連した先行技術調査を始め、場合によっては審査報告書つまり拒絶理由を発することになる。拒絶理由通知書で通常述べられるのは、1)出願クレームが特許査定、登録され得る。または、2)明細書あるいはクレームに何らかの疑問点があり解決されなければならない。例えば、USPTOが、出願クレームと同じ、または自明と判断する先行技術を見つけるかもしれない。出願人は(実際は弁理士を通すことになるが)、通常、意見書によって該当技術が先行技術と異なる点を明確する、または明細書を補正する等して拒絶理由に応答しなければならない。このプロセスが、特許庁が発明の内容に新規性と非自明性を見出すまでに、弁理士と特許庁間で何度か繰り返された後、米国での特許付与となる。他に多種多様なプロセスがあるが、これが基本的なプロセスである。

登録後の無効審判

ある米国特許権者が自分の特許を侵害しているかもしれない他者を訴え、この他者が本件を法廷に持ち込み特許の有効性についてを争う係争が起きた場合、無効審判となる。 この他、法定外で特許の無効を争うこともあり、付与後レビューや、当事者系レビュー、ビジネス方法レビュー、査定察系再審査などが挙げられる。この種の審判それぞれには、いつどのタイミングで審判を起こすべきかを大きく左右するルールがある為、どの種の審判が戦略的に適しているか等、あらゆる要素を十分に検討しなければならない。

付与後意義申立、当事者系レビュー、そしてビジネス方法レビューは、査定系再審査制度よりも費用がかかりやすい。然しながら、第三者が特許の無効手続きに深く関わることができるという利点がある。その代わりに、匿名で請求が可能である査定系審査制度とは違い、当該手続きは実名による手続きとなる。どの無効手続きを選択するかどうかは、費用、請求対象となる特許の重要性、あるいは匿名性の必要性によって検討される。付与後意義申立、当事者系レビュー、そしてビジネス方法レビューのそれぞれの無効請求方法では、それぞれ異なる規則が適用される為、無効請求対象の特許の内容にって使用できる請求方法が決まる。

付与後異議申立は、2013年3月16日以降の有効出願日のクレームに対してに限り、さらに特許付与後9ヶ月以内でなければ申請できない。付与後意義申立は、非自明性、新規性および35 U.S.C. § 112(a)に基づいた無効申請される。さらに、他の無効申請制度とは違い、付与後異議申立てによる無効請求は、ベストモードを除いて、特許や発行文献に限らない。

当事者系レビューの利用は、特許権行使期間が失効していない場合に申請が可能であるが、さらに付与後意義申立が進行中でない場合と付与後意義申立に使用には適していない場合に限る。さらに、当事者系レビューでは、無効請求理由が特許文献に基づく非自明性および新規性に限られる。

ビジネス方法レビューもまた特許権利行使期間が失効していない特許に対してのみ請求可能であるが、さらに付与後レビューが無効請求手段に利用できない場合に限る。ビジネス方法レビューは、装置 金融サービスの実施、管理、運営に関係するデータ処理における方法手段や装置について特許請求する非技術的なものに限る。ビジネス方法レビューは、AIA(リーヒー・スミス米国発明法)の先願主義の基づいて付与された特許に対してはあらゆる根拠において請求が可能でるが、先発明主義タイトル35の採用に基づいて付与された特許に対して使用できる先行技術が限られている。

査察系再審査制度は、特許権利行使可能な期間であればいつでも請求が可能である。この無効請求手段は新規性と進歩性、さらに発行済み特許文献に基づいてのみ審査される。

特許の無効請求手段は、コストやその他諸々を全て鑑みた上でよく吟味して選択する必要がある。

登録後の補正

USPTOでは、特許の再発行手続きが可能で、これにより特許権者は登録後の特許の訂正を行うことができる。再発行手続きの理由としては、クレームの範囲が狭すぎる、あるいは広すぎる、情報開示内容に訂正が必要、出願人が優先権主張をし損ねた、他国での優先権主張に間違いがあった、出願人が文献の引用をし損ねたり先行して係属中の案件への引用に間違いがあった、等が挙げられる。再発行によりクレームの範囲を広げるための手続きは、登録査定から2年以内に行わなければならない。さらに、特許権の再発行は通常の出願と同じような審査をたどるため、再発行手続きのための審査によりクレームが特許化できないと判断されてしまうこともある。リスクを十分わきまえた上で再審査手続きを採るべきである。